ショッカーの午後

ショッカーの憂鬱 序文

さて、ショッカーとはなにか?いきなりナレータが断言している。
「ショッカーは、世界征服を企む悪の秘密結社である。」
つまり、世界征服を目的とした集団ということだ。世界征服ってなんだろう。そもそも、世界征服してど〜するのか?ここに、ショッカーの憂鬱がはじまる。

世界中の人間を支配下において、金を集めて楽な暮らしがしたいなら、話もわかる。しかし、ショッカーの計画をみると、支配することに重点がおかれているワケではなく、もっぱら殺戮と破壊、混乱に重きを置いている。現時点での支配者、国家に対して、脅迫等の取引を求めるでもなく、将来への明確なビジョンもない。なぜか?

それは、いみじくもナレータが語ったとおり、「悪の秘密結社」だからなのだ。ひとつの目的の元に集まった悪党と思われがちだが、逆である。まっとうな社会生活が営めず、生活に困窮した悪党が集まったトコロに、世界征服という命題が与えられたのである。彼らは集団のように見えるが、その実態は、個人の集合体なのだ。それぞれが勝手な思いをいだき、勝手に行動しているから、軍隊のような統率された集団にはなりえないし、ましてや国家のような長期的ビジョンなど存在するわけもなく、また、宗教団体のような思想もない。まったくの迷走集団それが「悪の秘密結社」というわけだ。

ところで、ショッカーは、ど〜ゆ〜組織になっているのだろう。

まず首領の存在がある。この存在は、鳥のマーク等に現わされ、最終的にはキングダークのような巨大ロボへと変化するが、基本的には「声」のみの存在である。ショッカーはその後ゲルショッカー、デストロンと名前を変え活動を続けていくのだが、実は首領は同一人物である。やってるコトも、ほぼ同じである。この首領の下に具体的な施策を実行する幹部がいる。「死神博士」「ゾル大佐」「地獄大使」などに代表される、恥ずかしくてそのままのカッコでは町を歩けないよ〜な連中だ。彼らは、首領の意を汲み、さまざまな作戦を計画、実行する。その実行部隊の中心人物が「怪人」たちだ。「怪人」は実行部隊長であるとともに、作戦兵器としての改造人間でもある。そして、瑣末な事柄を処理する「戦闘員」がその命令系統の末端に存在する。これらの「世界征服」実働部隊以外に研究部門がある。研究部門はいわば兵站部だ。ショッカーの重要かつ唯一の兵器である「改造人間」を製造し、毎回作戦に貢献しているが、彼らはショッカーの理念や目的に興味はなく、己が研究に没頭しているのが常らしい。

「改造人間」、ショッカーはなぜこんな兵器を使うのだろう。世界的な組織らしいが、そのわりにはセコイ兵器だ。ミサイルや爆弾なんかのほ〜が、ずっと効果的と思われるのに、いつまでも改造人間なのだ。これは、おそらく、低予算で製造できるからなのだろう。

低予算、つまるところショッカーに金はない。社会から外れた悪党がひっそりと寄り集まっている集団だから、食っていくだけでも精いっぱいなハズだ。それなのに、首領のいうこと聞いて、世界征服のための珍作戦を繰り返すものだから、台所事情はそ〜と〜苦しいのである。おそらくかなりの幹部連中が、持ち出しでヒ〜ヒ〜いってることだろう。それでも、彼らショッカーがショッカーとして生活するのは、今さら社会に戻るコトもかなわないからなのか・・・。

実際にショッカーを運営してみればわかるだろうが、かなり金を食うはずである。戦闘員には給料が出ているし、ライダーにやられた戦闘員や怪人の家族にも、それなりの金が払われねばならないし、そのへんのアパートをアジトにすりゃいいのに、空き地の地下に秘密基地造営するものだから、イニシャルコストも相当なわけだ。しかも、ライダーに邪魔されて、毎回作戦は失敗。これじゃ金を回収する暇もない。そもそも、ライダーに逃げられたのがつまづきのはじまりだ。大規模予算で最終最強兵器として製造したのに、なんの作戦もできないまま、兵器にトンズラされてしまったのだから、いきなり借金生活というわけだったのだ。(その後の怪人の出来がいまいちなのも理解できる)

しかし、こんなしょ〜もない秘密結社なのに、どうして逃げ出したり脱会しないのだろう。それは、同類相憐れむの心情がはたらくからなのか。たしかに、今さら脱会して社会に戻ったとしても、社会がそ〜簡単に受け入れるとは思えない。元ショッカーということがバレれば、アパートだって貸してもらえないかもしれないし、ひょっとしたら住民票だって受理してもらえないかもしれない。社会からはじき出され、ショッカーに就職した時点で、もう後戻りはできないのだ。だが、このままショッカーにいても、未来はない。破壊と混乱だけの政策で、仮に世界征服を達成したとしても、ショッカーの構成員に幸福はおとずれないだろう。彼らショッカーに対する真の救済とはなにか……。

それは、ライダーによるショッカーの完全なる撲滅、地上からの消滅こそが救いなのだ。彼らはライダーに破壊されるコトを望んでいたのだ。ショッカーがライダーを製造したときに、脳の改造手術を後回しにしたのは、たしかに迂闊にうつるかもしれない。けれども、それは彼らの内なる望みであったのだ。表立って計画したわけではない。計画したわけではないが、ショッカーにとって真の救済への道だったのだ。

「世界征服を企む悪の秘密結社」として混乱と破壊をもたらすショッカーにとっての救済の道が、ライダーによる完全なる破壊であった。なんと哀しい話なのであろう。

そして、ショッカーは11人のライダーたちにより、永遠に葬りさられた。今を去ること十数年前の話である……。

ショッカーへの真の救済を果たしたライダーではあるが、そのライダーの救済はあるのだろうか?

それは、ありえない。だからこそ、ライダーは孤独なのだ……。


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